2019年 忍者学会での発表要旨
第1部 序
第2部 万川集海と武蔵一族の忍士の比較
第3部 新パラダイムとしての忍士道
第4部 忍士道の提唱
第1部 序
2006年以来、当忍士団は武蔵流忍術を道にするための努力が新たな文化を生み出すと捉え活動してきた。そしてその活動における忍術体現の為の共通理念を忍士道と呼称し順次、公開してきた。本発表ではその全体像を提示し有用性を説く。
第2部 万川集海と当忍士団の忍士の比較
忍びの理念を論じた文献で注意を引くのは、万川集海と正忍記である。本発表では国立公文書館内閣文庫の万川集海(1676年(延宝四年)版における忍者の道徳・倫理の概念を検討し、当忍士団の忍士道の背景を考察する。
万川集海では忍者を忍士(しのびざむらい)と忍者(しのびのもの)に分けている。忍士は忍術を使う武士で、その守るべき徳は正心、術理は機をみて諜報活動を行うとしている。
当忍士団はまず、江戸幕府に仕えた隠密活動に従事した目付や武士、使節として欧州で諜報活動の要になった者たちを江戸忍士と定義した。その特徴は幕府の学問吟味により朱子学・儒学を基礎とした倫理規範と社会を治める知識の両方を持つことである。これは武士道の成立を先行していたと推測する。
第3部 新パラダイムとしての忍士道
忍士道は時代に適合しながら展開する。当代から忍士と定義は、「技術を持ち、組織に属し、情報を扱い、共通の目的を目指し忍=和の道を歩む者」とした。
大正になるとキリスト教的思想が導入されパラダイムが変革した。昭和の後半はさらに陰陽思想や五行思想、禅などが取り込まれ集大成され、理論と独自の想体系が確立した。平成では、根本理念が共鳴水鏡と命名され、修行の究極目的は和合で空(くう)という表現が定着した。また、忍士が専門知識を術から道へと段階的に昇華させるための指針とシステムとメソッドが整備された。忍士は精神的鍛錬、忍びの技術を修練し、その精神・信条を日常生活で活かす。即ち、意思決定、忍務の遂行、物造り、人つくりの中で共鳴の概念を自分の体験として具体的に生きる。
忍術を現代に活かすには修練で磨いた感応を活かす。そして周囲の状況を和とする。その行動指針は「林風雷陰」で表される。即ち、 「静かに素早く行動し、瞬時に結果にたどり着き、知られる事なく結果を導く。」事である。
実用の例として忍者体験を挙げる。師範と通訳者は体験者を客観視し本質を正確に捉える、通訳は異文化間の意思疎通を鑑みて、相手に合わせ意訳し、情報を取得し、師範と内容を調整する。
第4部 忍士道の提唱
伝統的な忍びの技術と思想を現代で有効活用しながら、 忍びの文化をより発展させ更に日本国内外に普及させるには、教育システム及び指導理念を具備したパラダイムが必須である。